「60代になったら、徐々に資産運用上の安全資産割合を増やしていき、全体のリスク許容度を下げましょう。」
そんな話を聞いたことはありませんか?
これは、主に「若い人と違って、資産価格が急落した場合に価格が回復するまで待てる時間が少ない」という根拠に基づきます。
では、いつから、どのくらいの割合にすべきなのでしょうか?
今回は、老後の資産運用におけるリスク許容度について考えます。
年齢だけのルールは古い?
以前は、「60代になったら」という目安がよく使われていました。
それは、多くの人が60歳や65歳で定年退職をし、その後は、家族とともに年金生活に入るケースが一般的だったからです。
しかし今は、老後の過ごし方における多様化が進み、リタイヤする年齢や、資産の使い方について、自分で選択できる時代になってきています。
- 定年を迎えても、なお仕事を続ける
- 早期退職して、いわゆる“FIRE”をする
- 起業するなど、定年そのものに縛られない
- 共働きにより、資産のうちの“自分の分” が増える
- 収入源が給与、配当、不動産収入など、多様化している
このような時代においては、年齢という一律のルールに縛られることなく、自分なりの資産の寿命管理をしたいものです。
では、具体的にリスク許容度はどんなふうに考えればいいのでしょうか?
《参考》
投資信託のバランスファンドの中で「ターゲットイヤー型」と呼ばれる種類の商品をご存じですか?
この商品群も、将来の取り崩し時期が近付くにつれてリスクを抑えていくという考え方で設計されています。ただし、一般的には「退職年齢」を基準としている点が特徴です。
自分の退職する年齢の年をターゲットとし、それに向けてポートフォリオの構成を積極運用から安定運用へ自動で調整してくれるのです。
確定拠出年金の運用先として選ばれることが多いようで、自分でリスク調整するのは面倒だと思われる方には、商品設計で一定の目的をかなえてくれる点で評価されています。
見るべきは「キャッシュフローの安定性」
注目すべきは、“キャッシュフロー”です。
安定した収入が少なくなり、資産の「取り崩し」が始まる時点がいつなのかを把握してください。つまり、
安定収入 < 日常の生活費
となる時期がわかったら、できるだけ早い段階で対策を検討してください。
なぜ、“事前”なのかというと、シークエンスリスクに対応するためです。
シークエンスリスクとは、取り崩しが始まるタイミングで、資産価格が急落するリスクです。例えば、退職直後にリーマンショック級の暴落が起きたとイメージしてください。
その場合、評価減の資産を売却して現金化する(資産価格が高い頃より多くの口数や株数の売却を要する)ことになります。価格が回復した頃には資産そのものが減っているため、資産寿命は元の想定よりも短いままとなってしまうのです。
また、安定した収入についても注意が必要です。安定した収入とは、給与や年金などを指します。
不動産の賃貸収入を含む場合もありますが、その場合は全額を計算に含めてはいけません。なぜなら、建物の老朽化具合を考慮し、管理費・修繕費などを差し引いた純粋な手取りのみを安定収入に加えます。
分配金や配当を安定収入にいれるという考え方もありますが、分配金は基準価額を下げる要因になり、配当は変動しやすく、将来なくなる可能性もあります。
生活費という“安定支出”に対応する収入としては、適しているとは言い難い側面があります。安定収入の補完部分として考える慎重さが必要です。
4つの箱で見極める
では、対策はどんなふうに行えばいいのでしょうか。
まずは、保有している資産を4つの箱に分類してください。
① 使う箱
日常生活費のための箱です。すぐに使う予定の資金です。
② 守りの箱
生活防衛資金のための箱です。不測の事態に備えて、すみやかにためらいなく出せるよう準備します。リタイヤ後であれば、日常生活費の6カ月分から1年分ほどの確保をおすすめします。
③ 貯める箱
使う目的が決まっている資金です。使用時期・金額がある程度決まっているため、減っては困るため、定期預金や国債など、リスクが極めて低い金融商品で保有します。
④ 増やす箱
資産運用のための箱です。上記の3つの箱とちがって、増やす目的であるため、リスクを取りつつリターンを目指す資産です。本記事のテーマに関わる箱です。
この4つの箱の話は、私は全年代の方に向けて行いますが、その組み立ては話す相手により若干異なります。
安定収入がこの先も続くような、そして市場が暴落しても回復を待てる時間がある場合は、②の守りの箱は3カ月程度でもよい場合がありますし、③の貯める目的の資金についも、使う時期が10年以上先であれば、その一部はリスクをとって④の箱で増やすことも検討します。
しかし、リタイヤ後でかつ、何かあればフルタイム勤務にすぐ戻ることができないような年代になった場合は、話は違います。
きっちり、4つの箱に分類し、特に②の守りの箱、③の貯める箱を人生の安全装置として安全資産で保有することが大切になるのです。
キャッシュフロー依存度がリスク許容度を決める
最初に、「安定収入 < 日常生活費」という話をしました。
実は、その差額がどの程度、先ほど分類した④の増やす箱の資産に依存しているかが重要なのです。
わかりやすいよう具体例で考えます。
○ 依存度が低い人
安定収入(年金など) ≧ ミニマムな生活費
④の箱の運用資産が急落しても生活への影響は少なく、価格の回復を待てるため、積極運用が可能。
○ 依存度が高い人
安定収入(年金など) < ミニマムな生活費
毎月の支出が④の箱から生ずる資金に頼らざるを得ない場合は、一部を相対的に価格変動が小さい資産に換えることでリスク許容度(資産全体の変動幅)を見直す必要があります。
不足額については、その源泉を信用力の高い複数の債券の利金で補うことも一案です。
また、②の守りの箱を手厚くするのも有効です。
資産分散でリスク低減効果を狙うという人もいます。資産分散は有効な手段ですが、短期・中期的な視点において、過去には、資産分散の効果が十分に発揮されず、多くの資産クラスが同時に下落した局面もありました。そういう事実も念頭に置いてください。
《おまけ》 運用を楽しみたい方へ ― 逆算のポートフォリオとは? ―
資産運用が大好きで、ある程度の資産を保有している方にある事例をご紹介したいと思います。
老後資金問題で怖いのは、長生きリスクです。そこで、先に80代以降の必要生活資金を安全資産で確保してしまうという方法もあります。
例えば、日常生活が年金より毎月5万円足りないとすれば、80歳から100歳までの20年間分を計算します。
5万円×12カ月×20年間=1,200万円
これを③の貯める箱に入れてしまいます。
インフレリスクを考慮して、安全資産とされる資産(定期預金・国債・政府保証債・地方債など)の中でもなるべく高い金利のもので置くようにしましょう。
すると、④の増やす箱の資産は、79歳まで持たせればいいということになります。
実際にこれに近い方法で管理されている方がいて、その方は、毎月、79歳までの必要生活資金の合計額と、今保有している運用資産総額を算出して比べているそうです。
当然ですが、必要生活資金は時間の経過とともに減っていきます。運用がうまくいけば、余力が生まれることになります。
「79歳まで持たせれば勝ち」という前向きマインドで、日々資産運用を楽しまれているようです。
もちろん、負けてしまう可能性があります。けれど、“79歳まで” というゴール設定と、毎月数字を確認するということで、調整もしやすくなるはずです。
人によって、老後の過ごし方はさまざまです。でも、自分が楽しみたいことを優先したい、大きな心配から解放されたいと思うのは共通しているのではないでしょうか?
そのような時期において、お金に関することの心理的負担を軽くするために、資産寿命を延ばすための運用は継続しつつ、資産価格急落時における生活への影響度を事前にイメージして対策することが重要です。
自分なりの人生の安全装置をつくって、豊かな暮らしを実現してください。
※本記事は、2026年7月時点の法制度等および情報による内容です。今後変更となる可能性があります。
2026年7月1日
