資産運用

“投資”をするその前に・・・生活防衛資金は大丈夫?

「最近、株価が好調だね。」「新NISAはもう始めている?」

こんな声が聞こえてきたら、「私も資産運用を始めた方がいいかしら?」と少し焦りを感じる人もいるかもしれません。

2024年に新NISA制度が始まり、資産運用に興味を持つ人が増えてきました。
旧NISA制度は、2014年からの10年の間で、NISA口座における累計買付額は約35兆円、新NISAでは、わずか2年で同じ規模の約35兆円を積み上げました。※1

“貯蓄から投資へ“の流れが本格化することは、ファイナンシャル・プランナーとしても喜ばしいことではありますが、その前にひとつだけ、確認させてください。
あなたの生活防衛資金は、ちゃんと準備されていますか?

実は、長く投資を続けられる人ほど、“使わなくていい現金”を持っています。

生活防衛資金とは

生活をする上では、どんな人にも病気やケガ、または失業など不測の事態が起こる可能性があります。
そんな場合でも、日常の生活をある程度の期間継続していくための非常用の資金、それが生活防衛資金です。緊急用資金などと呼ぶ人もいます。

特徴は2つあります。

  • 資金使途を持たない資金である
  • 現金、または普通預金で用意されている

万が一のときのための資金なので、いざというとき、ためらいなく、すみやかに使えるようにしておくことが重要です。
よく、「資産を3つの箱にいれて分類しましょう」と聞くことはありませんか?
これは、自分が保有する金融資産について、目的別に、“使うお金(日常の生活資金)”、“貯めるお金(使う時期・目的が決まっているお金)”、“増やすお金(お金に働いてもらう投資資金)”に分けることを意味します。
生活防衛資金は、この3つの箱以外に分類される“守りの箱”に分類されます。

人によって備えとしての現金の厚みは異なる

では、生活防衛資金はどのくらい準備すればいいのでしょうか?
それは、それぞれの家計によって異なります。具体的に金額を決める上で考慮すべきポイントを記載しますので、ご自身の場合はどうなのか確認してみてください。

① 収入の柱は何本あるか(家計構造)

もし、あなたが失職した場合を想像してください。あなたの他に収入を得ている人が家族にいるかいないかでリスクは大きく変わります。
また、他に収入のある家族がいなくても、あなた自身が失職した仕事からの収入以外の収入、例えば不動産や配当収入などがある場合もリスクは逓減します。

つまり、万が一の収入途絶リスクをどれだけ分散している状態かを確認します。

② 保障(保険)によるリスクの外部化

まず、あなたが加入している公的健康保険制度を確認しましょう。
一般的な会社員の方が加入している社会保険は、長期の病気やケガへの傷病手当金※2などの保障があります。これは国民健康保険にはない利点となります。
個人事業主の方の場合でも、特定業種のための保険に加入している場合は、所得補償の制度があったりします。

そして、雇用保険の仕組みを知っておくことも大切です。雇用保険の加入者は、要件を満たすことができれば、基本手当※3によって、失業した場合でも収入の途絶を防ぐことができます。

③ 心理的要因(不安耐性、過去の経験など)

いくらお金を持っていれば、あなたは安心しますか?
こればかりは、本当に人によって違うのです。その背景には、健康面であったり、過去にお金に苦労した経験があったりなど、さまざまなことが影響している場合があります。
万が一をイメージして、後述する具体的な設計をして、それでもプラスαを持つことで得られる安心があるならば、それはその人にとって必要な資金です。

守りの資金は、資産運用とは別のもの

そもそも、資産運用に充てているお金は、生活防衛資金にはならないのでしょうか?
「いざとなれば、それを使えばいい。だから資産運用に全振りだ」と考える人もいるかもしれません。

生活防衛資金と資産運用の資金を明確に分けて持つのには次の理由からです。

  • 資産が目減りして、足りない状態の可能性
  • 評価損の場合、損失確定してから現金化への心理的負担
  • 即時現金化ができないことが多い(決済して資金の受け渡しまでのタイムラグ)

この記事の最初に記していますが、生活防衛資金は、不測の事態を打開するための緊急資金です。使うときは、ためらいなく、すみやかに現金化が前提です。
いつ使うかわからない(すぐに使うかもしれない)資金は、資産運用には不向きです。

個別最適な生活防衛資金の設計を

まずは、1カ月分の生活費を算出します。「このくらいのお金があれば、1カ月生活できる」支出の金額です。

家賃の支払いの有無や、お子様がいる場合の毎月の教育費、健康に不安のある方の医療費など、家計の状態はそれぞれで異なります。必ず、自分の家計を確認し、金額を算出してください。
最近は、物価が上昇していますので、直近数カ月分を改めて計算してみることをおすすめします。

毎月の必要生活費がわかったら、何カ月分を生活防衛資金として準備するかは、3段階で設計します。

第1のレイヤー:1カ月~3カ月分 → 個人で用意する即時対応用

すべての家計が用意しておくべきとされるのは、一般的に3カ月分です。
3カ月分の根拠は、よく言われてきたのが、雇用保険の基本手当(失業手当)の支給について、かつて、自己都合で退職した場合、2カ月程度の待ち期間があるケースが多かったことにあります。現在は、原則1カ月、場合によって3カ月が適用されています。※4

そして、この第1のレイヤーについては、家族で用意するのではなく、すべて大人が個人で用意することをおすすめします。
不測の事態は、まずは個人の問題として降りかかります。その時に、誰かに依存するのではなく、緊急対応を即時に自分自身で解決できるよう準備しておくのは、大切なセーフティネットとなります。
あなた自身の人生のお守りとして、ぜひご用意ください。

第2のレイヤー:3カ月~6カ月分 → 家族を守る基本ライン

生活防衛資金は、上記の第1のレイヤー+第2のレイヤーの合計金額です。
3カ月分から6カ月分というのは、あくまで目安ですが、どのくらいの厚み(期間)にするのかは、前述の「収入の柱の数」「保障によるリスク抑制度合い」を考慮しながら、家族で決めて準備しましょう。
収入の柱が1本、あるいは、傷病手当金や雇用保険の適用がない個人事業主の方などは厚めに用意することをおすすめします。
もちろん、この第1のレイヤー、第2のレイヤーについては、流動性の高い普通預金等で準備します。
キャッシュレスの時代ですが、その一部を現金で手元に用意している人も少なくありません。

第3のレイヤー:6カ月~1年分、あるいはそれ以上

このレイヤーは、心理的要因による上乗せ部分です。
例えば、第1+第2で6カ月分の金額を算出したときに、「なんだか不安」を感じる場合は、その直感は無視すべきではないと思います。
収入が不安定さであったり、過去にお金に困った経験があったりなど、お金に関する安心の感覚はその人にしかわかりません。

そして、このレイヤーは、実は資産運用のポートフォリオの安全資産の部分と重なると考えます。
緊急時の対応資金は別にあるけれど、それ以上の安心のための資金なので、すぐに使う可能性は極めて低いと考えられます。
その場合、定期預金や個人向け国債など、安全性と一定の流動性を兼ね備えたものを中心に保有することも選択肢です。
冒頭の“増やすお金”の一部を構成する資金となります。

守りの設計が攻めを強くする

いかがでしょうか?あなたの、そしてあなたの家族の日常を守るための生活防衛資金について具体的なイメージは湧きましたか?

私は、このような資金が別に確保されていることで、日頃ちょっと贅沢したり、資産運用を積極的に行ったりができるのだと思います。

投資は“余剰資金”で行うものです。
だからこそ、先に生活防衛資金を整えることになります。

とはいえ、生活防衛資金を一気に貯めるのは簡単ではありません。
「投資も始めたいけれど、生活防衛資金も必要」という人も多いでしょう。

そんなときは、生活防衛資金として貯める分を差し引いたうえで、“給料をもらわなかったことにできるくらいの小さな金額”だけ、例えば、月5,000円程度から積立投資を始めるのも一つの方法です。

無理のない範囲で小さく始める投資は、生活防衛資金の形成と両立できます。
そして、生活防衛資金という家計の安全装置が整うほど、投資の“攻め”は安定し、積極運用が可能になります。

さて、今年のボーナスの使い道、どうしますか?

※1 日本証券業協会「NISA口座の開設・利用状況 (2025年12月末時点)【速報版】」より

※2 傷病手当金
業務外の事由による病気やケガで、働けなくなった場合のそなえ。休業4日目以降、標準報酬日額の3分の2相当額が、通算1年6カ月まで支給される制度。公的社会保険の被保険者が対象。

※3 雇用保険の基本手当
雇用保険の被保険期間など要件を満たした人が、離職(失業)した場合に、生活を安定させながら求職活動ができるように支給される。就職可能な状態であることが前提条件なため、病気やケガなどによる離職ですぐには働けない人は対象外となる。

※4 基本手当の給付制限
自己都合により離職した場合、7日間の待期期間後、原則1か月の給付制限がある。ただし、5年以内に自己都合退職による受給が2回以上ある場合や、自己の重大な責任による解雇の場合は3か月が適用される。

※本記事は、2026年6月時点の法制度等および情報による内容です。今後変更となる可能性があります。

2026年6月3日

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