ライフプランニング

キャッシュレスの世界③—価値との交換が未来を変える—

「未来の子どもたちにとってのお金と、今の私たちにとってのお金は持つ意味が異なるものかもしれない」

シリーズ第3回の執筆を決めたのは、そんな思いからでした。

「キャッシュレスの世界」と題したシリーズ記事において、
第1回は、現金を使用しない決済手段の現状について、日本における普及の背景を整理しました。
第2回は、その進化に潜むリスクと課題を深掘りし、リスク管理の重要性についてお伝えしました。

今回は、特別編として、キャッシュレスという“決済手段”の枠を超えて、現金を使わない“価値を交換する世界”を覗いてみます。
そこにある、未来からのメッセージをあなたはどう受け取りますか?

未来をつくる価値の交換手段

これまで見てきたキャッシュレスの世界は、利用する私たちが主役でした。
今回の主役は、“社会”と言っていいのかもしれません。

その新たな社会に影響を与えるキャッシュレスの手段として、ここでは「暗号資産」「ステーブルコイン」「CBDC」「トークン化預金」を取り上げます。

これらの未来の金融インフラを理解するうえで重要な4つの仕組みについて整理します。

これらの共通点はインターネット上で価値の交換・移転ができることです。
そのため、次のような利点があります。

〇 デジタルなので、即効性が高い(リアルタイム性)
24時間365日の取引が可能になります。

〇 運用コストが従来よりも抑えられる
デジタル上の取引は、従来のように複数の金融機関等を経由する必要がなく、取引プロセスそのものの簡素化により、コストの低減が見込まれます。

〇 プログラムによる効率化
一定の条件下で実行するプログラムを組むなど、自動取引が可能になり業務の効率化につながります。

〇 デジタル社会における連携
例えば、トークン化預金の取引のためのネットワークにステーブルコイン取引を可能にするなど、システム共有による汎用性が期待されます。

なお、これらのデジタル価値は、法制度や技術がまだ発展途上であり、価格変動や規約変更による影響を受ける可能性があります。
利用する際には、仕組みやリスクを理解することが大切です。

これまでの経緯

ビットコインに代表される暗号資産は、未来のインフラをつくるというよりも、この存在が契機となって、未来の金融インフラづくりが始まったと言って過言ではないと思います。

1.ビットコインの登場
2008年に、“サトシ・ナカモト”と名乗る人物が提唱したとされるブロックチェーンという技術※2に基づいた暗号資産(仮想通貨)は、管理者不在、現物の裏付けなしという、これまでとまったく異なるデジタル資産として脚光を浴びました。
その価格のボラティリティの高さゆえ、世にいう“億り人”も出てきて、徐々に多くの人がその存在を知ることになります。

そして、暗号資産は、投資資産としてではなく、その利便性に着目して、決済手段として活用する人々がいました。
ネット上でその価値を直接移転できるため、24時間365日、リアルタイムで国際送金できて、手数料が安いのです。

実際、10年以上前に、留学生の子を持つお母さんがビットコインで海外送金している話をしていました。
当時からすでに、「銀行を通さない送金」という発想は現実のものだったのです。

しかし、その価格の乱高下は、通貨としての“価値の尺度”が機能せず、発行体もないことから、通貨としての利用には問題があったことは事実です。

2.ステーブルコインが役割を担う
そこで登場したのが、ステーブルコインです。
ステーブルコインは、仕組みは暗号資産と同じなので、暗号資産の一種と言われますが、現在の日本の法律上では『電子決済手段』として、ビットコインなどの暗号資産とは区別して扱われます。
民間の企業が発行元となり、その価値に対して資産の裏付けをしています。その資産の裏付けにより、価格はその資産に連動します。
例えば、Tether社が発行する代表的なステーブルコインUSDTは、その裏付けとなる準備資産は、米ドル、米国債であるため、1USDT=1ドルとなるよう設計されています。

つまり、決済、送金として利用する際のこれまでの暗号資産の問題点を解決するデジタル通貨が誕生したのです。

3.「民間任せでいいのか」国が動く
ネット上でできる24時間365日のリアルタイム取引、かつコストは安いという新しい金融インフラの誕生は、金融のあり方そのものを変えうる動きでした。
ステーブルコインの急成長に対し、多くの国家が公共インフラの問題として検討することとなります。

・ 国際送金の主導権
・ 法定通貨の信用
・ マネーロンダリング問題

これら上記に加え、ひいては金融政策への影響も無視できません。
国家が発行するCBDC(中央銀行デジタル通貨)構想です。
国の信用の元、中央銀行が法定通貨としてデジタル通貨を発行するものです。これこそが公共インフラ、金融システムの安定化につながるものとして、現在多くの国で検討が続いています。

4.銀行としての存在感の危機
これまで、決済、送金のインフラを担ってきたのは銀行です。
銀行としても、未来の金融インフラの一翼をこれからも担うべく、ステーブルコインの発行体となるところもあります。
それとは別に、これまで培った銀行預金口座を活かし、その保有者への利便性向上を高めるため、預金のデジタル版を誕生させました。トークン化預金です。
これは、銀行預金をデジタル化して、24時間365日リアルタイム送金を実現するものです。
しかも強みとしては、あくまで預金なので、預金保険法が適用される安心感があります。

このように、それぞれの進捗状況、成熟度合いなどに違いはあれ、新たな金融インフラの構築への意欲的な動きが感じられます。

もうひとつのデジタル通貨―ゲーム内通貨―

ここで、忘れてはならないキャッシュレスで行う価値交換の手段があります。
子どもたちは、現実のお金よりも先に、この世界で「価値の交換」を学んでいるのかもしれません。

それは、ゲーム内通貨です。

閉じたデジタル経済圏で価値を持つ通貨であるゲーム内通貨は、子どもたちにとっての価値の交換の手段として、非常に身近なものです。

例えば、メタバースのようなインターネット上の現実ではないもうひとつの「街」や「社会」で、ユーザーは自分の分身であるアバターを通して、その中で仕事、買い物といった経済活動ができます。

ゲーム内通貨は、事業者が破綻しない限り※3、原則として現実のお金に戻すことはできません。
これは、法律上「ポイント」や「プリペイド」と同じ扱いで、払い戻しが認められていないためです。

一方で、メタバース空間では「価値を生み、交換し、移転する」仕組みが急速に広がっています。
具体的には、ユーザーが作ったアイテムを販売して収益化できるゲームや、デジタル資産(NFTなど)を所有し、他のサービスへ持ち運べる仕組みが登場しています。
これらはまだ一般的ではなく、価格変動や規約の制約もありますが、“デジタル空間で生まれた価値が、現実世界とつながる未来” が議論され始めています。

子どもたちにとっての“お金”とは?

この記事を読まれている方の年代はわかりませんが、大人たちにとっての「お金」は幼い頃、小さな封筒に入ったお年玉という現金がスタートだったのではないでしょうか?

しかし、現代の子どもたちは、○○Payなどのキャッシュレス決済でお年玉をもらい、ゲーム内通貨を使って、自分だけの選択でアイテムを購入する体験をします。

実体がないものが価値を持っていること、それがあたりまえの世界が出発点となるのです。

さらに、金融経済教育が進み、資産運用への理解が進むと、お金は「円」だけを表すものではなくなります。

現金も、暗号資産も、ポイントも、ゲーム内通貨も、これからの子どもたちにとっては、単なる価値を交換するツールであって、交換するものこそに自分の価値を感じるのかもしれません。

キーワードは“シームレス”

未来の金融インフラ、そしてメタバースなどにふれてきて、私は、より“シームレスな世界”になると感じました。

暗号資産などは24時間365日、国境を超えて取引ができます。そこに為替交換はありません。
また、メタバースは、国籍も世代も関係なく、参加者が共通の言葉、通貨で生活します。

完全に境界がなくなるわけではありませんが、キャッシュレスの世界はデジタル技術によって、さまざまな境目を越えながら、私たちの暮らしに影響を与えていくのでしょう。

社会の変化が多様化しているとき、その現象にすぐさま参加するべきとは思いません。
けれど、なにが起きているのか、起きようとしているかについて、興味をもって考察することは大事だと思います。

また、自分自身はその新しい世界のプレイヤーではなくても、そこに違った感覚を持つ人たちがいると知ることは、見える景色を変えてくれます。
まさに、周りにいる子どもたちは、私たち世代とは、違った視点で物事を見ている可能性があります。

違う世界、違う世代同士でシームレスに学び合う姿勢を忘れたくはありません。
まずは、自分や身近な人がどのような手段で「価値」をやり取りしているのかを、話題にするところから始めてみてはいかがでしょうか。

※1 ウォレット
デジタル通貨や暗号資産を管理するソフトウェアや仕組みのこと。公開鍵と秘密鍵からなる暗号技術を用い、特に秘密鍵を管理することで資産への不正アクセスを防いでくれるもの。

※2 ブロックチェーン
取引情報やデータを「ブロック」という単位にまとめ、それらを時系列に鎖のようにつなぎ、ネットワーク上の多数のコンピュータで分散的に記録・共有する技術。

※3 ゲーム運営会社の破綻の場合
ゲームに課金しており、未決済の金額については、資金決済法により事業者に義務付けられている供託金等より、一部(あるいは全部)が戻ってくる場合があります。

※本記事は、2026年4月時点の法制度等および情報による内容です。今後変更となる可能性があります。

2026.4.1

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